卒業式。
亜月 有
「―――ねえ。なんで卒業式にって、第二ボタンあげるんだと 思う?」
彼は、わたしにそういきなり聞いてきた。
もちろん私は、知っているはずもない。
「さあ・・・」
適当に答えると、彼は一瞬笑みを消して。
「心臓にさ・・・一番近いからなんだって。」
そういって、彼は笑った。
「俺のボタン・・・もらってくれますか?」
いつもみたいにおどけながら。
あの時。
どんなに私が嬉しかったか、あなたはわからないでしょうね?
私は無表情で、憎まれ口ばかり聞いていて。
あなたはいつも笑っていて、大勢の人に囲まれていた。
私はいつも彼を見ていた。
彼は私を見るはずなんかないと、思っていても。
だから、夢みたい―――だったよ。
あれから、一ヶ月たって。
結局ボタンをもらうことは、出来なかった。
親の転勤の都合で。卒業式にも出席せず、彼は遠くに行ってし まった。
急な決定で、見送りに行く事さえ、出来なかった。
「―――嘘つき。」
私はそう、つぶやいて。
ネクタイを締めなおして、制服のチェックをする。
心臓に一番近い、彼の第二ボタンは、きっと一生、
学生服についたままなのだろう。
―――それでも。 桜の散る下で、
今日、私は卒業する。
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