ある春の日に
陽だまりがぽっかりと存在していた。
今日はまるで、春と言うものの見本を、神様か何かが見せびらかしているかと思えるほど、まさしく『春』だった。
だから少女も、何も疑問に思わず、その陽だまりに近付いたのだった。
その陽だまりは、周囲の冷たい影とのコントラストも手伝い、まるで光が集っているかのように見えた。
光の中に足を踏み入れると、途端に自分の周囲が暖かくなる。
思わず上を振り仰ぎ、手を天に伸ばしてみる。
と、ふわりと何かが降りてくるのを認めて、少女は手を視界から外す。
ゆっくりと、風に流されながら下へ滑ってくる『何か』に、更にゆっくりと手を伸ばす。
初めに指に触れ、そして少女が手を握ると同時に、『何か』は手のひらの中に収まる。
腕を降ろし、握った手のひらをこわごわと開く。
中には、くしゃくしゃになった桃色の紙が納まっていた。
怪訝に思いながらも、更にその紙を開いていく。
その紙は、裏面は真っ白で、正方形をしていて―――つまり、折り紙だった。
折り紙を空に向けてみる。
光は、折り紙をくぐり抜けながら、その色をまとって少女の元まで零れて来た。
少女は折り紙の皺を目で辿る。
端まで来たらまた他の端から。
また端まで来たら他の端から。
少女はふいに桃色の紙を空からどける。
丁寧に皺を伸ばし、出来る限り正方形へと戻す。
そして、皺の一部をなぞると、その皺のとおりに折り紙を折った。
なぞる。
折る。
なぞる。
おる。
何度かその動作を繰り返し、少女は折り紙を持ってまた空に向かう。
息を吐き、それを打ち消すように大きく息を吸い、静かに息を吐き。
そして、もう一度息を吸い、少女は振り仰ぐ。
そのまま、大きく腕を振り上げ。
息を吐くと同時に、少女は折り紙を天に放り投げた。
その折り紙は、すでに四角でも、皺くちゃでもなく、飛行機をかたどっていた。
風に乗り、飛行機は空へと昇る。
飛行機が昇るにつれて、陽だまりは少しずつ狭くなって行く。
少女は追われる様に陽だまりから出る。
少女が陽だまりを振り向くと、そこにはもう影が広がるばかりだった。
薄暗く、底冷えのする影の中で、少女はまた空を見る。
光は見えない。
それでも空は青い。
少女は、空へ不敵に笑いかける。
飛行機は、光の中へ。
少女は、何処かへ。
また陽だまりで巡りあうために。
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